日本演奏芸術医学研究会
設立趣意書

 音楽家や舞踊家は身体運動の高度な巧緻性を要求されるため、彼らの医学的問題には独自の医学分野が必要とされています。この問題が演奏芸術医学として議論され始めたのは1980年代になってからで、まず米国で楽器演奏者の上肢の痛み、声楽家の音声障害、バレエダンサーの下肢の障害が討議されました。音楽家と舞踊家の医学的問題は神経疾患や精神科領域にまで拡大し、2000年代からは欧州でも研究会が開かれています。

 わが国では2010年に日本音楽家医学研究会が開催され既に9回を数えるに至り、毎年約100名もの参加者を迎えてきました。最近は参加者の大半が医師および歯科医師で占められるに至ったため、この医学研究会を組織化して日本演奏芸術医学研究会を設立する運びとなりました。

 設立の目的は、音楽家と舞踊家、すなわち演奏芸術家の医学的問題を研究して演奏芸術医学という独自の領域をわが国に確立するとともに、彼らが安心して専門の医療が受けられる体制作りを目ざします。またこれまで整形外科、耳鼻咽喉科、神経内科など限られた科目の疾患が研究対象になっていたものを拡大し、内科、精神科、婦人科、眼科、歯科など全科の医師にもご参加いただいて、演奏芸術家のトータルヘルスケアを目ざします。さらに彼らの健康障害の診断や治療法だけでなく予防法も研究対象とし、これからの医療を担う若手を育成することも目的にしています。

 ここでいう演奏芸術家とはプロだけに限らず、趣味で楽しむアマチュア音楽家や舞踊家も含めています。超高齢社会を迎え楽器演奏やダンスを楽しむことが、高齢者の心身の健康を維持するだけでなく、認知症予防の可能性も報告されています。このためアマチュアを含む演奏芸術家人口は、ゴルフや野球などのスポーツ人口に匹敵すると言われており、今後日本各地でますます増加してゆくものと考えられます。

 以上の目的のために、日本演奏芸術医学研究会は毎年学術集会および公開講座を開催するとともに、インターネットを通じた会員同士の連絡および議論の場を提供し、ウエブサイトで演奏芸術家のための医療が受けられる医療機関を紹介する役割も果たします。

 日本演奏芸術医学研究会の設立趣旨をご理解いただき、本研究会の会員もしくは賛助会員としてご協力いただけますよう、お願いする次第です。

 どうぞこれからの日本の音楽家および舞踊家の医療のために、よろしくお願い申し上げます。

令和3年                          

日本演奏芸術医学研究会
 代表準備委員 酒井直隆

   岡崎 賢
  小﨑健次郎